院長ブログです
中学生のリサは、些細なことですぐにぶつかってしまう母との関係に悩んでいた。
母が忙しい中でも弁当を作り、家事をこなしている姿を見ると、「ありがとう」と伝えたい気持ちは浮かぶ。しかし、恥ずかしさが先に立ち、いつも素直になれない自分にイライラしていた。
そんな中、学校の課題で地域の美化活動に参加することになった。公園の掃除を担当することになり、ベンチの下に落ちているゴミを拾おうとしたとき、一通の封筒を見つけた。それは可愛い便せんに「おかあさんへ」と書かれた手紙で、「ごはんをつくってくれてありがとう」「おしごとがんばってね」といった素直な感謝の言葉が綴られていた。
その文字を見つめながら、リサはふと自分の母親のことを思い出し胸が痛くなった。
掃除を終えようとした頃、慌てた様子の少年が現れた。「ここに置いたんだけどなぁ」とベンチの周りを探す少年に「これ、君の?」と封筒を差し出した。少年は驚いた表情でうなずいた。
「中身を読んじゃった、ごめんね」と謝りながら渡すと、「本当は渡したいけど、恥ずかしくて…」と少年は顔を伏せた。
リサは少し考え、「お母さん、きっと喜んでくれるよ」と優しく励ますと、少年は「本当?ありがとう!」と元気よくお礼を言い、封筒を大事そうに抱えて帰って行った。
その夜、リサは思い切って「ご飯、いつもありがとう」と母に声をかけた。
母は少し驚いたような顔をしたが、すぐに優しく微笑んで「どういたしまして」と返した。
翌日、公園に向かったリサは、昨日の少年を思い出しながら、そっとベンチの下に目をやった。すると、そこには新しい紙切れが落ちていた。
拾い上げると、そこには「ありがとう!おかあさん、よろこんでくれたよ」と丸い文字が並んでいた。リサはふっと笑って、小さな枝を拾い、地面にそっと書いた。
「わたしもいえたよ ありがとう」
風がそよぎ、地面の文字を見つめながら、リサは少しだけ誇らしい気持ちになった。