院長ブログです
文化祭の劇で、私は大道具係だったが、同じ係の長谷川くんのことをあまり頼りにしていなかった。
声は小さいし、目立たない。練習中はずっと何かをメモしている。椅子の位置、暗転の長さ、小道具を渡す順番。
メモ帳の端までぎっしりで、私はそんなに細かいから動きが鈍いんじゃないのと思っていた。
でも長谷川くんはいつも一番早くに来ていた。
床の目印がはがれていれば貼り直し、置き場を間違えた道具があれば戻し、練習が終われば最後まで残る。私はそれを見ても、裏方が好きなんだろうな、くらいにしか考えていなかった。
ところが本番の数日前、主役の子が体調を崩し、私が代役に入ることになった。台本は読んでいても、立ち位置も動く順番もあいまいなまま。本番当日、幕の裏に立った途端、頭の中が真っ白になった。
その時、長谷川くんが走ってきて、1枚の紙を差し出した。
「これ、君の出番だけまとめた」
そこには、私の出番だけが順番に書き出され、立ち位置や小道具の場所が大きな矢印でつながっていた。まるで、迷わないように道が引いてあるみたいだった。私はその紙を握りしめて舞台に立ち、劇は無事に終わった。
片付けのあと、1人になった体育館で紙を見返すと、矢印の先はどれも「次」に向いていた。次に立つ場所。次に動く人。次に渡す道具。
あのメモの端にあった小さな矢印は、きっとずっと前から、誰かのための次を指していたのだ。
最後の椅子を並べ終えた私は、次の人が使いやすいように、その向きを少しだけそろえた。