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こころ温まるお話「夕日に浮かぶ笑顔」

       

小学校の帰り道、その日は午後から雨で、その子猫はダンボールの中で寂しそうに鳴いていた。

「ごめんね、うちでは飼えないの」

みー、みー。

「ほんとうに、だめなんだよ」

みー、みー。

気がつくと、僕は子猫を抱え玄関のドアをくぐっていた。
お母さんも最初は怒っていたが、もともと動物好きなこともあり「戻して来なさい」とは言えず、「ミィちゃんどうしようか」と名前までつけていた。

仕事から帰ってきたお父さんにふたりして怒られながらも、父は父で「捨てるわけにもいかないしなぁ」とミィちゃんの頭を撫でながら悩んでいる。

「明日は会社も休みだし、一緒に里親を探しに行こうか」

父がそう言いながらミィちゃんの頭を優しく撫でると、嬉しそうに喉を鳴らして目をつむった。

 

翌朝、父と一緒にミィちゃんを連れて心当たりを回った。

だけど、急に猫を連れて来られて二つ返事で飼える、という人は少ないようだ。

「見つからなかったら飼えるかも」と子供心に考えていたが、それを見透かすように父からは
「誰も居なかったら、ミィちゃんは保健所ってところに預けなきゃいけなくなるんだ。
それはミィちゃんにとってすごく怖いところだから、絶対見つけてあげよう」と力強く言われた。

そんなところにミィちゃんを渡したくない一心で、飼ってくれそうな人を僕は一生懸命思い浮かべる。

8軒ほど回ったころ、幼馴染のカナちゃんの家が近いことを思い出した。
カナちゃんの家は昔猫を飼っていたからもしかしたら…。

「このこ、チロちゃんみたいなおめめしてるね」

ミィちゃんをひと目みて、カナちゃんは目を潤ませた。
昔飼っていた猫に雰囲気が似ていたらしい。

「ママ、このこ飼いたい!」

「そうね。ちょうど新しい猫を飼おうと思ってたの。良かったらうちにおいで」

カナちゃんのママがそう言うのを聞いて、ほっとした。

「あきらめずによくがんばったね」

帰り道、父はそう言って僕を肩車してくれた。
そこから見えた夕日はとても綺麗で、カナちゃんに抱き抱えられたミィちゃんの顔を思い出しながら、あきらめなくて良かった、そう思った。

     

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