院長ブログです
夕方、スーパーに行こうとすると、玄関には息子の靴がバラバラに散らかっていた。
「アキラ、また脱ぎっぱなし！」
そんな小言に耳を傾ける様子もなく、転がっていた靴を履いた息子は玄関から勢いよく飛び出した。
買い物を終えると、辺りはすっかり暗くなっていて、夜空にはきれいな満月が浮かんでいた。
「すっかり夜だね、早く帰ろう」そう言いながらアキラの手を握ると、思いのほか強い力で握り返された。
そのあともずっと何かに怯えるようにしてぴったりとくっついて歩くので、どうしたの？と質問するも、ずっと「ついてくる…」と言うだけ。
慌てて振り返ったが、特に人の気配は感じられない。
誰もいないよと声をかけても、下を向いたまま一向に離れようとしなかった。
「何がついてくるの？」
少し心配になり再び尋ねると、アキラは夜空に輝く月をおずおずと指さしながら話す。
「リカちゃんのママがね、悪い子はお月さまに連れていかれちゃうって言ってたんだって」
なるほど。子供に言うことを聞いてほしくて、作り話をしたのだろう。
私はほっと胸をなでおろし、「いい子は連れてかれないから大丈夫だよ」と答えた。
家に着くとアキラは玄関にちょこんと座り、脱いだ靴を丁寧に揃えると、不安そうに私の顔を見上げて問いかけてきた。
「いい子は連れてかれない？」
私はアキラの目を見て、「これからも脱いだ靴はきちんと揃える？」と聞き返すと、アキラは首を大きく縦に振った。
そういえば私も幼い頃、母に「夜遅くまで起きているとオバケが出る」という作り話を信じて一人でトイレに行けなくなったことがあったっけ。
「お月さまは、”いいところ”もちゃんと見てるよ」
そう言ってアキラの肩を抱き寄せながら、窓のカーテンを開ける。
「それに、もし連れていかれそうになっても大丈夫！ママがアキラのいいところ全部、お月さまに教えてあげるから」
それを聞いて微笑むアキラの笑顔を、満月が優しく照らしていた。
